Food記(ふ〜どき)

味は一人前1センチトマト
生産農家は国内9件 週5000パックだけ


直径はせいぜい1センチほどの「マイクロトマト」。丸くて赤い実に細かい緑のヘタ。形は立派なトマトだ。かみしめると、ぷつりと皮が破れ、甘酸っぱい汁があふれ出る。味も一人前だった。


遺伝子操作か、特殊な栽培法か、あるいは突然変異か。生産地の愛知県蒲郡市に足を運んだ。
蒲郡は三河湾の海岸線に沿ってヨットハーバーと温泉が点在するリゾート地。遊園地やショッピングモールを合わせた巨大レジャー施設「ラグーナ蒲郡」もある。


マイクロトマトを生産しているのは、国内でも三河温室園芸組合に加入する9軒の農家だけ
同組合は、大葉や菜の花など、メーンの料理に添えられる「ツマモノ」が専門で、生産者の一人、吉見和幸さん(55)も、元々は食用菊の農家だった。

4年前に栽培を始めた時は、「こんなミニトマトの出来損ないみたいのが売れるかな」と半信半疑だったが、小ささが面白がられ、じわじわと評判が広がっている。全国約15都市の市場に卸しているが、最盛期でも生産は9軒合わせて週に5000パック程度。なかなかお目にかかれないのも、珍重される一因だ。

誕生の秘密を尋ねると、「秘密でも何でもないよ。元々ある品種の一つらしい」との答え。種は当時、県農業総合試験場の研究員だった菅原眞治さん(60)から譲り受けた。

菅原さんは、品種改良のために世界中から種を集めていた。「マイクロトマトの故郷?資料は退職するときに置いて来たからねえ。もう分からないな」。なんだか謎めいている。

実を大きくするために改良されてきたものを、あえて小さくしたのは、まさに逆転の発想。類似品も登場したが、
「ミニトマトとほとんど変わらない大きさで味も今ひとつ。品質はまねできないね」。吉見さんが胸を張る。


ビニールハウスに案内してもらった。細い茎がレース編みのように茂り、小さな実が房になってぶら下がっている。
カメラを構えると「下は写しちゃダメだよ」と声をかけられた。より小さく、おいしく作るための企業秘密は根の辺りにあるらしい。

盛夏には一度、生産が落ちるが、9月の末には、再び本格的な出荷が始まる

トマトひと口メモ
トマトの原産地は、南米・アンデス高原。野生種は小さな実をたくさんつける。
メキシコを経てヨーロッパや北米に渡り、各地で品種改良が進んだ。
日本には江戸初期に渡来。写真は、スプーンに乗るマイクロトマト。


(飯田祐子)

2006.8.6(日) 読売新聞より参照・引用